人工膝関節の手術をしたのに歩きにくいのはなぜ?術後リハビリの重要性と、筋力低下・脊柱の変形が歩行回復に与える影響
手術が終われば、以前のように歩けるのでしょうか?
変形性膝関節症が進行し、人工膝関節置換術を受けられる方は少なくありません。
手術によって関節の痛みが軽減し、日常生活が送りやすくなることが期待できます。
しかし、ここで知っていただきたいことがあります。
手術が成功したからといって、
関節の状態が改善することと、身体を支える筋力や歩行能力が回復することは、必ずしも同じではないからです。
特にご高齢の方では、膝だけではなく、脊柱や骨盤、体幹の筋力なども歩行に大きく関係します。
今回は、実際に当院へ来院されている患者様の症例をもとに、手術とリハビリテーションの関係についてお話しします。
実際の症例|両膝の人工関節置換術を受けたご高齢の患者様
当院へ来院されているご高齢の患者様のお話です。
この方は両膝に変形性膝関節症があり、今年2月に人工膝関節置換術を受けられました。
手術後は病院で2〜3週間ほどリハビリを行ったものの、退院後は継続的な運動やリハビリをほとんど行っていなかったとのことでした。
そして現在、
「脚に力が入らない」
「踏ん張りが利かない」
「以前のように歩けない」
といった不安を感じていらっしゃいます。
しかし、この方の場合、考えなければならないのは膝の状態だけではありません。
過去に腰椎圧迫骨折を経験されており、脊柱の後弯が非常に強く、
つまり、人工膝関節の術後という問題に加え、身体全体の支持能力にも課題があると考えられます。
人工膝関節置換術後に筋力が低下する理由
人工膝関節置換術では、傷んだ関節面を人工関節に置き換えます。
しかし、手術によって関節周囲の組織にも処置が加わるため、術後には組織の回復期間が必要になります。
また、手術前から長期間膝に痛みがあった方では、活動量が減少し、大腿四頭筋などの筋力が低下していることもあります。
さらに術後には、痛みや腫れなどの影響によって、筋肉が十分に働きにくくなる場合があります。
これを関節原性筋抑制と呼びます。
関節からの感覚情報の変化などによって、筋肉を収縮させる神経系の働きが抑制される現象です。
そのため、筋肉そのものが存在していても、十分な力を発揮できないことがあります。
つまり、術後の筋力低下には、単純な筋肉量の減少だけではなく、神経系の働きも関係しているのです。
膝だけでなく「体幹の筋力」が歩行には重要
歩くためには、膝関節が動けばよいわけではありません。
人間は歩行中、片脚で身体を支える時間があります。
その際には、
- 大腿四頭筋
- 大殿筋・中殿筋
- 下腿の筋肉
- 腹部や背部の体幹筋
などが協調して働いています。
特に体幹は、歩行中に上半身の姿勢を保ち、重心を適切に移動させるために重要です。
体幹の筋力や姿勢制御能力が低下していると、膝の筋力がある程度回復していても、安定して歩くことが難しい場合があります。
「脚に力が入らない」という訴えの背景に、
脊柱の後弯が強いと歩行にどのような影響があるのか?
今回の患者様では、腰椎圧迫骨折の既往があり、脊柱の後弯が非常に強くなっています。
脊柱の後弯が強いと、上半身が前方へ傾きやすくなります。
すると、身体は転倒しないように、骨盤や股関節、膝関節などの位置を調整しようとします。
例えば、膝を軽く曲げた状態で姿勢を保とうとすることがあります。
しかし、膝を曲げた状態で身体を支え続けるには、大腿四頭筋などの働きが必要です。
もともと筋力が低下している方では、この姿勢を維持すること自体が大きな負担になる可能性があります。
さらに、体幹の支持能力が低下していると、重心を適切にコントロールすることが難しくなり、歩行の不安定さにつながる場合があります。
つまり、人工膝関節の術後であっても、
手術後のリハビリはなぜ必要なのか?
人工膝関節置換術後のリハビリでは、主に次のような機能の回復を目指します。
① 膝関節の可動域を改善する
膝を曲げることはもちろん、しっかり伸ばせることも重要です。
特に膝の伸展制限があると、立位や歩行時の負担が増える場合があります。
② 大腿四頭筋の筋力を回復させる
大腿四頭筋は、膝を伸ばし、立ち上がりや歩行中に身体を支える重要な筋肉です。
術後は筋力低下や関節原性筋抑制が生じることがあるため、状態に応じた筋力トレーニングが必要になります。
③ 股関節や体幹の機能を改善する
歩行の安定性には、膝だけではなく、股関節周囲や体幹の筋力も関係します。
特に姿勢の変化が大きい方では、身体全体の支持能力を考慮する必要があります。
④ バランス能力を改善する
筋力が回復しても、重心移動や姿勢制御が十分でなければ、安定した歩行にはつながりません。
そのため、立位でのバランス練習や歩行練習も重要になります。
入院中のリハビリだけで十分とは限りません
人工膝関節置換術後のリハビリは、入院中だけで完結するとは限りません。
退院後も、医師や理学療法士の指導に基づいて、必要な運動を継続していくことが重要です。
特に高齢者の場合、手術前から筋力や体力が低下していることも多く、機能回復には時間がかかる場合があります。
今回の患者様のように、膝以外にも脊柱の変形や体幹筋力の低下がある場合には、より総合的なリハビリが必要になることがあります。
ただし、リハビリは痛みを我慢して毎日強く行えばよいわけではあ
運動の内容や負荷、頻度は、術後の経過や身体の状態に合わせて調整する必要があります。
術後の歩行が不安定な場合は再評価も重要
術後しばらく経過しても、
「脚に力が入らない」
「膝が抜けそうになる」
「歩いていると身体が前に倒れる」
「転倒しそうになる」
といった症状が続く場合には、リハビリ不足だけで判断しないことも大切です。
人工関節の状態、膝の可動域、筋力、神経系の問題、脊柱の状態などを確認する必要があります。
特に転倒を繰り返す場合や、急激に歩行能力が低下した場合には、手術を担当した整形外科での再評価が重要です。
手術とリハビリは一つの治療過程として考える
私は、手術とリハビリは切り離して考えるものではないと思っています。
手術は、傷んだ関節に対する重要な治療です。
しかし、日常生活に必要な筋力や可動域、バランス能力を取り戻すためには、その後のリハビリが大切になります。
特に高齢者では、膝だけでなく、脊柱や股関節、体幹などの機能も歩行に影響します。
そのため、手術をした部位だけに目を向けるのではなく、身体全体の状態を確認することが重要です。
まとめ|手術はゴールではなく、身体の機能を取り戻すためのスタート
人工膝関節置換術によって関節の状態が改善しても、筋力や歩行能力がすぐに元通りになるわけではありません。
特に、長期間の痛みや活動量の低下、脊柱の変形、体幹筋力の低下などがある方では、回復に時間がかかることがあります。
だからこそ、手術後のリハビリは非常に重要です。
焦らず、しかし何もしないままにせず。
身体の状態に合った運動を継続し、少しずつ日常生活に必要な機能を取り戻していく。
手術は関節を治療するための大切な一歩。そしてリハビリは、
当院でも、術後の患者様については医療機関での治療方針を尊重しながら、筋肉や関節、身体全体の動きに目を向け、日常生活をより安全に送るためのサポートを大切にしています。



