産後の腰痛は仙腸関節が原因?授乳中の無理な姿勢でお尻の奥が痛くなる理由と、わずかな関節の動きが身体に与える影響
産後にお尻の奥が痛くなる。その原因は仙腸関節かもしれません
「お尻の奥がピンポイントで痛い」
「仰向けになると腰や骨盤周囲が痛む」
「椅子に座っているだけでもつらい」
こうした症状がある場合、腰の筋肉だけではなく、仙腸関節という関節にも目を向ける必要があります。
仙腸関節とは、骨盤の後方にある仙骨と腸骨をつないでいる関節です。
この関節は、肩関節や股関節のように大きく動くわけではありません。
しかし、身体を支え、上半身と下半身の間で力を伝える非常に重要な役割を持っています。
そして、仙腸関節の周囲に負担が集中すると、強い腰痛や臀部痛が生じることがあります。
今回は、実際に当院へ来院された産後の患者様の症例をもとに、仙腸関節と腰痛の関係についてお話しします。
実際の症例|授乳中に身体をひねったまま眠ってしまった患者様
本日、当院へ来院された産後のお母さんのお話です。
この方は、授乳中に身体をひねった姿勢になり、そのまま長時間眠ってしまったそうです。
すると、その後から骨盤の後方、お尻の中央に近い部分に強い痛みが生じるようになりました。
痛みの場所は非常にはっきりしており、仙腸関節周辺を指して、
「ここが痛い」
とおっしゃる状態でした。
さらに、
- 仰向けになるのがつらい
- 長時間座っていることが難しい
- 姿勢を変えると痛みが出る
といった症状もあり、日常生活に支障が出ていました。
私は、この方の痛みに仙腸関節周囲の組織が関係していると考え、骨盤周囲の状態を確認しながら施術を行いました。
仙腸関節とは?わずかしか動かない重要な関節
仙腸関節は、仙骨と腸骨によって構成されています。
仙骨は背骨の一番下にある骨で、その左右に腸骨が位置しています。
この仙骨と腸骨をつないでいるのが仙腸関節です。
仙腸関節の特徴は、可動域が非常に小さいことです。
股関節のように大きく曲がったり、肩関節のように自由に回転したりする関節ではありません。
研究では、仙腸関節の動きは一般的に数度以下の回旋や、わずかな並進運動であることが報告されています。
つまり、動きの小さい関節なのです。
しかし、動きが小さいからといって、重要性が低いわけではありません。
仙腸関節は、上半身から骨盤へ伝わる力を下肢へ伝達する役割を担っています。
立つ、歩く、座る、寝返りを打つ。
こうした日常動作でも、仙腸関節周囲にはさまざまな力が加わっています。
仙腸関節が数mmしか動かなくても痛みが生じる理由
関節の痛みは、可動域の大きさだけで決まるわけではありません。
仙腸関節の周囲には、関節包や非常に強い靱帯など、関節を安定させる組織が存在しています。
また、仙腸関節の周囲は神経による痛みの感覚とも関係しています。
そのため、関節や周囲の組織に負担が加わると、痛みが生じる場合があります。
特に重要なのは、仙腸関節が大きく動く必要はないということです。
ほとんど動かない関節であっても、
ただし、痛みがあるからといって、仙腸関節が物理的にズレていると判断できるわけではありません。
仙腸関節周囲の靱帯や関節そのものへの負担、筋肉の活動などを含めて考えることが大切です。
なぜ身体をひねった授乳姿勢で腰痛が生じるのか?
授乳中は、赤ちゃんの位置に合わせて身体を傾けたり、ひねったりすることがあります。
さらに、授乳中にそのまま眠ってしまうと、無理な姿勢を長時間続けることになります。
身体をひねった姿勢では、骨盤や腰椎、股関節周囲にかかる負荷が左右で異なる場合があります。
短時間であれば問題にならない姿勢でも、長時間続くことで筋肉や関節周囲に負担がかかることがあります。
今回の患者様も、授乳中に身体をひねったまま眠ってしまったという明確なきっかけがありました。
そして、その後から仙腸関節周辺に痛みが生じています。
この経過から、私は長時間のひねった姿勢による骨盤周囲への負担が、今回の痛みに関係していたと考えています。
産後の女性は骨盤周囲に負担がかかりやすい
妊娠・出産を経験した女性の身体には、さまざまな変化が生じます。
妊娠中はホルモンの働きなどによって、骨盤周囲の靱帯や関節の性質が変化します。
また、妊娠中から産後にかけて、体幹や股関節周囲の筋肉の働き方も変わることがあります。
出産後には、
- 授乳
- 抱っこ
- おむつ替え
- 赤ちゃんを抱えたままの立ち上がり
- 睡眠不足による疲労
など、身体に負担のかかる場面が増えます。
特に、授乳や抱っこでは同じ姿勢を長く続けることがあります。
そのため、腰椎だけではなく、仙腸関節や股関節周囲にも負担がかかることがあります。
産後の腰痛を考える際には、
仙腸関節周辺の痛みは、どのような症状として現れるのか?
仙腸関節に関係する痛みは、骨盤の後方に現れることがあります。
特に、腰の下部からお尻の上部にかけて、比較的限局した痛みとして感じられる場合があります。
また、次のような動作で痛みが出ることもあります。
① 寝返りや仰向けになる動作
寝返りの際には、骨盤や腰椎、股関節が連動して動きます。
このときに仙腸関節周囲へ負担が加わると、痛みが現れる場合があります。
② 椅子に座り続ける動作
座位では骨盤の傾きや周囲の筋肉の緊張状態が変化します。
長時間座っていることで、骨盤周囲に痛みを感じることがあります。
③ 立ち上がる動作
椅子から立ち上がる際には、股関節や骨盤周囲の筋肉が働きます。
そのため、仙腸関節周囲に痛みがある方では、立ち上がる瞬間に症状が現れることがあります。
ただし、これらの症状は仙腸関節に特有のものではありません。
腰椎や股関節、筋肉などの問題でも似た症状が現れるため、身体全体の評価が必要です。
仙腸関節の施術に強い力は必要なのか?
仙腸関節周辺に痛みがある場合、
「骨盤がズレているから強い力で矯正する」
といったイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私は必ずしも強い力を加える必要はないと考えています。
仙腸関節は、もともと動きの小さい関節です。
また、痛みが強い場合には、周囲の筋肉が防御的に緊張していることもあります。
そのため、強い刺激を加えることが、必ずしも適切とは限りません。
今回の患者様には、仙腸関節周囲を確認しながら、手のひらによる軽い圧迫や、周囲の筋肉の緊張を緩めるような穏やかな施術を行いました。
無理に関節を大きく動かすような施術ではありません。
身体の状態によっては、
施術後、仰向けや座る動作が大きく改善しました
今回の患者様は、来院時には仰向けになることも難しく、座っているだけでも痛みを感じている状態でした。
しかし、仙腸関節周囲への穏やかな施術を行ったところ、施術後には仰向けの姿勢や座る動作が楽になり、来院時に訴えていた症状が改善しました。
私は、今回の施術によって骨盤周囲の筋緊張や痛みの感じ方などに変化が生じたと考えています。
もちろん、仙腸関節そのものの位置が変わったことを確認したわけではありません。
大切なのは、強い力で骨盤を動かしたことではなく、患者様の身体
また、施術直後に改善した場合でも、その後の経過を確認することが重要です。
仙腸関節の痛みと腰痛を見分けるには?
腰痛というと、腰椎や腰の筋肉を原因として考える方が多いと思います。
しかし、腰やお尻の周辺には、さまざまな痛みの発生源があります。
仙腸関節のほかにも、
- 腰椎の関節
- 椎間板
- 股関節
- 臀部の筋肉や腱
- 神経
などが関係することがあります。
そのため、痛みの場所だけで原因を確定することはできません。
医療現場では、仙腸関節に負荷を加えて痛みの再現を確認する疼痛誘発テストなどが用いられます。
ただし、一つの検査だけで判断するのではなく、複数の所見を組み合わせて評価することが重要です。
また、必要に応じて整形外科などでの検査が必要になる場合もあります。
産後の腰痛を防ぐために、授乳姿勢を見直しましょう
今回の患者様のように、授乳中の姿勢が痛みのきっかけになることがあります。
そのため、授乳時には次のようなことを意識してみてください。
赤ちゃんを身体に近づける
赤ちゃんに合わせて身体を大きくひねったり、前かがみになり続けたりするのではなく、クッションなどを利用して赤ちゃんの位置を調整します。
長時間同じ姿勢を続けない
授乳中に姿勢が固定されると、筋肉や関節周囲に負担が集中することがあります。
無理のない範囲で姿勢を変えることが大切です。
腰や骨盤を支える
椅子に座る場合には、背もたれやクッションなどを利用し、身体を支えやすい環境を作ることも有効です。
無理に身体をひねらない
授乳中に赤ちゃんの位置を調整する際には、腰だけを大きくひねるのではなく、身体全体の向きを変えるように意識してみてください。
こうした小さな工夫によって、授乳中の身体への負担を減らせる場合があります。
強い痛みや症状が続く場合には医療機関での確認も重要
仙腸関節周辺に痛みがあるからといって、必ずしも仙腸関節そのものが原因とは限りません。
特に、
- 安静にしていても強い痛みが続く
- 発熱などの全身症状がある
- 下肢の筋力低下や強いしびれがある
- 歩行が難しいほど痛みが強い
- 症状が悪化している
といった場合には、整形外科などでの評価が必要です。
また、産後の女性では、まれに仙骨の疲労骨折など、別の病態が腰や臀部の痛みとして現れる場合もあります。
そのため、症状の程度や経過に応じて、適切な医療機関で確認することが大切です。
まとめ|仙腸関節は小さな動きでも身体を支える重要な関節
仙腸関節は、身体の中でも可動域が非常に小さい関節です。
しかし、上半身と下半身の間で力を伝える重要な役割を担っています。
そのため、長時間の無理な姿勢や身体への偏った負担などによって、仙腸関節周囲に痛みが生じることがあります。
今回の患者様は、授乳中に身体をひねった姿勢で眠ってしまったことをきっかけに、骨盤後方に強い痛みが生じました。
そして、仙腸関節周囲への穏やかな施術によって、仰向けや座る動作に大きな改善が見られました。
私はこの症例を通して、改めて仙腸関節周囲の状態を確認することの重要性を感じました。
腰痛の原因は、腰の筋肉や腰椎だけではありません。
骨盤の後方にある仙腸関節も、
当院では、痛みが出ている場所だけを見るのではなく、身体全体の動きや負担のかかり方を確認しながら、一人ひとりの状態に合わせた施術を大切にしています。



